金蘭千里50式

2018.01.01

金蘭千里学園50周年特設サイト

金蘭千里中学校・高等学校が2015年の50周年を記念して制作した、リレーブログ形式のコラム集です。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の50周年時の姿を描き出しました。

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増山実「勇者たちへの伝言 いつの日か来た道」(桑木茂幸)

 yuusha

主人公は50代の、仕事にも生活にも疲れた売れない放送作家。阪急電車内で「ニシノミヤキタグチ」というアナウンスを「イツノヒカキタミチ」と聞き間違えてしまうところから、この物語は始まる。

かつてここには西宮球場があり、阪急ブレーブスという強いのに何故か人気のないプロ野球チームが存在した。主人公は小学生時代にタイムスリップし、一度だけ父に連れられて来た、ブレーブスのナイター、昭和44年の最終戦のスタンドに迷い込む。登場してくるのは、華麗なるサウスポー梶本投手、代打の神様と呼ばれた高井選手、そして独特のダミ声で球場の名物であった応援団の今坂団長。ここまで、著者と同い年でブレーブスファンでもあった私にとっては、まるで暖かい弾丸を胸に撃ち込まれ、懐かしさが流血となって広がって行くようであった。

そんな第1章と打って変わって、父親の過去が語られる第2章からは、まだまだ貧しかったころの昭和30年代の日本と、そこに暮らす在日朝鮮・韓国の人達の物語が展開され、3章以降はそんな人達が帰国事業で帰った、北朝鮮の悲惨な実態が浮き彫りにされていく。それは現代史の闇の部分。読んでいて息苦しくなるほど。それでもかの地で、日本で見たブレーブスの思い出を支えに、勇敢に生き抜こうとした人々を描く。多くの伏線が意外な形で収斂し、感動的なラストへとつながって行く。読後感は爽やかであった。

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