金蘭千里50式

2018.01.01

金蘭千里学園50周年特設サイト

金蘭千里中学校・高等学校が2015年の50周年を記念して制作した、リレーブログ形式のコラム集です。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の50周年時の姿を描き出しました。

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フランク・ハーバート『デューン砂の惑星』  (山本匡)

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人生の後半に入って思うのは、印象に残る出来事というものはそのほとんどが人生の前半にあったということ。読書においてもそれは同じ、自らの読書経験をふりかえったとき、中高の時代に読みあさった書物たちばかりが強い印象を持ったものとして頭に浮かんできます。

シャーロック・ホームズ全巻読破に始まった私の読書熱は、ヴァン・ダインやエラリー・クイーンなどの推理小説を経て、星新一をきっかけに、いつしかSFへと移っていきました。

SFというと一般にはScience Fictionの略語と思われています。確かに科学的な知識をもとに想像力をふくらませて物語を構成している作品がほとんどです。しかし私が心ひかれたものはそういった特徴を持ちつつ、ただ単に荒唐無稽な世界を描いたものではなく、時間とは、文明とは、社会とは、人間とは、宇宙とは、といったテーマを明瞭に描いたものでした。その多くがリアリズムにのっとった現実を描く、いわゆる「文学」と呼ばれるものとは異質なものであり、結局こういったものに影響されたことが単純なリアリズムの小説を苦手とするその後の私の読書傾向を形作ってしまいました。しかし同時にリアリズムでは語れない思考のあり方を手にすることができたとも思っています。SFをSpeculative Fiction(思弁的小説)の略語とする定義がありますが、私を刺激したものはまさにこの意味でのSFでした。

前置きが長くなってしまいました。そんな時代の私が最も感銘を受けた作品が『デューン砂の惑星』です。後にデヴィット・リンチの手によって映画にもなったこの作品は、アラキスという一面砂漠の惑星を舞台とした物語で、そこに描かれているものは表面的にはある王家を中心とした政治的なドラマです。しかしそこにその惑星の社会・文化・風習・宗教、そして先住民族との関係などが絡み、さらに一面砂漠という環境に住む、後に『風の谷のナウシカ』にも影響を与えた〈サンドウォーム〉をはじめとする生き物の生態の描写が作品世界に厚みを与えて、壮大な物語世界が創られていきます。私はこの作品で初めて生態学(エコロジー)という言葉を知りました。ちなみに1965年の作品です。

石森(石ノ森ではない)章太郎の描く表紙にひかれて買っただけのこの作品がこれほど心に残るものになろうとは思いもしませんでした。『砂漠の救世主』『砂丘の子供たち』とシリーズ化され、今なお作者の息子の手によって書き継がれていますが、シリーズ化された多くの作品がそうであるように、第一作にそのすべてがつまっています。

若い時代の読書の大切さを伝えるためにも、この一文を記しました。参考になれば幸いです。

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