金蘭千里50式

2018.01.01

金蘭千里学園50周年特設サイト

金蘭千里中学校・高等学校が2015年の50周年を記念して制作した、リレーブログ形式のコラム集です。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の50周年時の姿を描き出しました。

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理科教諭、バドミントン部・ワークアウト部顧問  西井啓通

「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です。

よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です。
そうして最後になぞがとける。 これが科学の花です。」
日本の物理学者 朝永振一郎博士のことばです。
科学にたずさわる者、分野を究めるその前に、「よく考え、愉しむこと」ならそれぞれ何かをきっかけにして身に付けていることと思います。

高校2年生の秋、おもりとつるまきばねを使って振動の実験をしていたとき、無機質な鉛のおもりの振動が周期的に大きくなったり小さくなったりしました。まるで生き物のよう
なこの律動は、本当に不思議な光景でした。となりでこれを観察していたA君が「うなりだ」と言ったので、図書室に直行して調べると、「高さのわずかに異なる音が干渉して、
音の大きさが周期的に変化すること」とありました。

ちょうどその頃、微分形式で物理の学習を進めていましたので、この光景を微分方程式に表してみることにしました。このとき、ばねの重心移動とおもりの振動を連立するように
して方程式をつくりました。2学期末試験期間中でしたが、1週間必死になってその方程式を解くことができました。試験休みに入る頃には、それが周期のわずかに異なる2つの
振動の干渉によるものとわかりました。2つの振動が干渉して、その結果、おもりに不思議な動きを与える低周波数の振動が観察されていたのです。これはまさに「うなり」の発
生で、おもりとばねがその低周波でエネルギーを伝えあう「共振」をしていることもわかりました。

寺田寅彦のようにさりげない日常のふしぎをよく観察して考えることやR.ファインマンのようにいつでも物理を愉しむ姿に感化され、さまざまな事象の「ふしぎ」の殻を破ってみ
たい思いが大きくなりました。荒唐無稽なものにならないよう、パラメーターを整理して、微分方程式に表して解くこと、解けないときにはそれをていねいに理解することを続け
ました。わかるまで考える、わからなくても1週間後また考えるというふうにして。

数年後、理論物理学を専攻し、Tomonaga理論を学び、低温になると固体中では小さな電子が波のようにうなりと共振を起こして相互作用するさまが観察されることがあると知った
とき、高嶺に咲く科学の花は本当に美しいものだと実感しました。そして今、かつてのA君のように教室に根を張り、科学のふしぎに気付く高校生の眼にいつか出会えることを愉
しみにして、授業に向かいます。