国語科教諭・剣道部顧問 辰巳 聰
自給自足の生活にあこがれて、田舎に移り住んだ。
農業をしてみたかった。でも、農薬や機械を使ったり、ビニールマルチにおおわれた畑は嫌いだった。福岡正信『わら一本の革命』から「自然農」なる分野があることを知り、川口由一先生の話を聞きに行ったり、月に一回開催されている農業塾に行き、野菜や稲を育てる練習をした。自然農とは、自然のめぐりの中で草と共に野菜や稲を育てる農法である。先生の畑に立つと、むき出しの土の部分は無く、良い香りがし、心が安らいだ。
火のある暮らしをしたかった。荒れるに任せている山々の木々を有効活用し、電気もガスも使わないエネルギー的にも自立した生活をしたかった。夜はランプ、風呂は五右衛門風呂、台所は土間につくって薪で煮炊き、囲炉裏を切って、暖房は薪ストーブと夢は広がったが、家内に却下された。誰が家事をするのか、と。薪ストーブだけは許可された。寒い冬の一日、ゆらめく炎を見ながらの読書は最高である。
薪を作るのはけっこう重労働である。チェーンソーで、木を切って倒して、玉切りにして、斧で割って、薪小屋で一年間乾燥させてやっとできあがり。
草を刈るのもなかなか重労働である。これからの季節何もかもがあっという間に草に呑み込まれていく。最初こそ鎌で草刈りをしていたがとても追いつかない。今はエンジン式の刈払機でやっている。それでも常に草の勢いに押されている。
他にもなかなか大変なことは多い。が、どんなことも習熟していくのは楽しいし、なにより五体を使う労働の喜びがある。自然の移ろいを感じながら生活できるのも幸せである。今は午前四時。新たに水をはった水田に蛙の合唱が響き、裏の山ではホトトギスが鳴いている。