金蘭千里50式

2018.01.01

金蘭千里学園50周年特設サイト

金蘭千里中学校・高等学校が2015年の50周年を記念して制作した、リレーブログ形式のコラム集です。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の50周年時の姿を描き出しました。

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英語科教諭・剣道部顧問  田中 秀三


メンター 清水加津造先生
「英単語ピーナッツほどおいしいものはない」(P単)

30期生が高校1年生の時、自習用英単語集として、「英単語ピーナッツほどおいしいものはない」(P単)を採用したのは、他のメジャーな単語集に違和感があり、手作り感・人間味を求めていたからかもしれない。

P単はシンプルな構成と著者の清水加津造氏の強烈な個性が特徴。金メダル・銀メダル・銅メダルの3つのコースからできていて、30期生には入門的な銅メダルをやってもらうことにした。

例えば銀メダルコースの『言語』のジャンルでは、1ページに「語学の才能」「聞き取り能力」「英語で会話する」…「文法や語法」といった10個のフレーズがあり、”linguistic talent”, “listening comprehension”, “converse in English”… “grammar and usage” というふうに対応する英語表現が学習できるようになっている。
今はこのタイプの単語集も多くあるが、当時はかなり珍しいものだった。しかもすべて清水加津造氏ひとりが心血を注いで作ったものであり、実用に富んだものである。そのため現在再評価され、新しい衣をまとって書店に並んでいる。

P単のもう一つの特徴は、清水加津造氏の鋭い舌鋒である。他の有名どころの単語集を切って捨てる痛快さが魅力であった。私自身受験の時には「試験に出る英単語」に随分お世話になったものだが、それも「1単語1訳語」というやりかたの誤りを指摘してみせる。

かつぞー先生からの書簡

そんな清水加津造氏に興味をもっていると、大阪で初めてのP単採用校ということで著者から手紙をもらった。それに対して、P単の構成を分析して返事を書くところから文通が始まった。
今手元に残っているのは葉書が9通、手紙が20通、1994年の夏に始まり、1998年の秋に終わっている。内容は英語学習とパソコンの操作のことに終始している。(Windowsブームと重なる)それ以外の家族の話とか趣味の話とかはほとんどない。互いに相手の生活に入り込むことを避けていたのかもしれない。というよりは、英語を究めること英語教育を改善することに没頭するタイプの方で、そのためならいくら心血を注いでも構わない、という心構えだったので、それ以外の事を話題にすることが思い浮かばなかったのであろう。

実は加津造先生は(ここからは先生です)、「同時通訳の神様」と言われた國弘正雄氏のお弟子さんの一人である。それを知ってから遅まきながら國弘正雄氏の事を調べて、実は凄いお弟子さんと文通をさせてもらっていた、ということに後で気がついた。
加津造先生から学んだのは、英語学習あるいは英語教育への情熱、とりわけ音読の大切さである。いまだに音読の重要性を理論的に説明できないが、まず英語では音読が出来なければならず、繰り返し音読することの意義は、私のメンター(= 加津造先生)に教えられた。

「(この夏は)小さな予備校の方で、企画から教材まで全部自分の自由にやって楽しむつもりです。なんと講師料も予備校側と交渉して歩合制です。長文は『ケネディ就任演説』を取り上げる予定です。理由としては、最近ベストセラーなった『超勉強法』の一節です。なんと教科書2ページ位なら20回も読めば暗記できると、書いてあるではありませんか。それに本文のいたるところで文法的な分析を否定し、肯定的に書いてあるのは3行だけ、それも反論かわしが見え見えです。國弘先生はそんな与太は言いませんでした。『意味も文の構造もある程度わかるものを何百回も音読せよ』。私の経験ではこれが真実です。そこで、今年の夏は『超勉強法』の悪口をたくさん言い、合わせて私流にケネディ演説を解説しようと思っているのです。…」(1996.7.8.)

「2)単語集の機能的学習方法について:私自身は単語の大半をこの帰納的な方法で身につけてきました。初歩の間は教科書を何回も繰り返しましたし、一通り文法をマスターしてからは、ともかく何回も読めるような原書を選び、実際に何回も読みました。ただし、ここ10年ほどは読むのは新聞雑誌ばかりで、厚い原書はあまり読んでないのです。
新聞雑誌を読んでいて、気になる単語は記事を切り抜いて、直接カードに貼り付けてABC順に箱に入れておきます。意味は一応辞書で調べ、メモ程度に書き込んでありますが、既にカードを作った記憶があるものは辞書に改めて当たることはしません。この方法を15年以上続けておりますが、もとはと言えば、國弘先生のカードサイズは葉書大ですが、私のものは図書館カードサイズです。また國弘先生のカードによる例文収集は単語を覚えるためというより、語法や文化的な背景のための資料作りが主な目的です。私もいろんな目的で(語法、和英、連語etc)カードを作っていますが、今回は単語力増強に限りましょう。…」(1996.3.12.)

1998年10月22日付の手紙をもって、加津造先生からの書簡は絶えた。
しばらくして奥様から病気で他界された旨の葉書をいただいた。頼るべき肩(a shoulder to lean on)を失くした喪失感に、気持ちの整理がつかなかった。
その後自分自身の英語に関する進歩が止まっている。いつも加津造先生の後を歩もうとして意気地なく挫折を繰り返している。加津造先生が亡くなられた年齢を随分超えた今になっても。
「こんな時かつぞー先生なら…」とばかり考えてきた。強烈な個性を目の前にして眩い光の後を追うことしか考えてこなかった。でも、そろそろそこから卒業しなければいけないのかもしれない。