サイモン・シン『フェルマーの最終定理』
この定理が産声を上げたのは17世紀。フランスの数学者ピエール・ド・フェルマーが, 彼の愛読書である『算術』の余白に書き込んだメモがきっかけである。 さらに, 「私はこの定理について真に驚くべき証明を発見したが, ここに記すには余白が狭すぎる。」と(まるで今人気の某少年マンガの始まりの一言のような)コメントが記してあった。まるで誰かがそのメモを見ることを予想していたかのように残したこの一言の発見が, 以後350年に渡るこの物語のスタートとなる。
内容はワイルズのフェルマーの最終定理を中心に, それまでの歴史, 周辺数学事情を非常に的確に選んで一つの物語となっている。記述も実に読みやすく, 判りやすいので数学の専門家でも, 全く知識がない人でも読めると思う。「わかった気にする」だましではなく, うまく端折って次への興味を抱く構成となっており非常に面白い。ピタゴラスから数学史を説き起こし, フェルマーに至り, 谷村・志村予想を経てワイルズがこの難題を証明し, それを本来の意味の「定理」とするまでを, 巧みに記した無類の物語と言えるだろう。あくまで本書の主役はフェルマーの最終定理ではなくそれを取り巻く人間たちである。
題名からしてとんでもなく敷居の高い本のように思われるかもしれないが, 身構えずにぜひ一度読んで, この起伏に富んだ物語を体験してみて欲しい。
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