Saint-Exupéry 「Le Petit Prince」(辻本賢)
私の今日の学問的な基礎、今日の教訓的な心的状況を形成した物語は、Saint-ExupéryのLe Petit Prince です。
第2外国語の選択をフランス語に決めたのは、映画研究部に属していたので、せめてフランス映画の原名を発音し、訳してみたいと思ったからでした。法学部でフランス語を選択したのは100人のうち僅かに3人でしたので、仏文の学生と同じクラスの授業に入ることになりました。それは、とても厳しいものでした。1回生の学年末に、ついに単位を落としてしまいました。その点数は59点でしたので、先生にお願いに上がりましたところ、先生曰く、「可には僅か1点しか足りないが、その差は無限だ、君はフランス語を使う研究をするのか、しないのか」。「分かりました」と頭を下げて退室しました。そして、フェールした1回生の授業と2回生の授業をともに受講する形で進みました。その2回生のText がLe Petit Princeでした。夏休み後の最初の授業で、仏文生と競って得たフランス語力によって、もう1回生の講義には出なくてもよいと言っていただきました。
Le Petit Princeは、丸善で初めて購入した洋書で、表紙の星の王子さまに見入ったことを今も鮮明に記憶しています。可愛いわりに、なかなか手ごわく、訳は、内藤 濯を参照しました。そのお陰で、フランス語の力がつき、3回生に配当されている外書購読で、J.J.Rousseau“ Du Contrat Social”や Montesquex“L’Ésprit des droit”を読むことにつながり、4回生で、ゼミで国際法を学ぶ契機となりました。さらに、大学院修士課程、のちに博士課程の受験科目にもなりました。
今まで、Textで心に響いて感動したという経験は、過去の学校生活ではありませんでした。Le Petit Princeは、フランス語のTextとして、読みましたが、Textの内容がこれほど心にしみたものはありませんでした。
わが子に訳して、話してやろう、翻訳本を作ろうと、毎年のように、4月には、訳し始めていましたが、ノートは7月で終わっています。それ以後、自ら訳して、わが子に話してやろうと思ったTextに巡り合っていません。
バラの花、バオバブの木、夕陽、キツネの訓え、大切ことは目には見えない、蛇にかませて体をかませて軽くして、自分の星に帰るラストシーン。
私は、バラの花、キツネの訓えである友達について大いに教えられました。
子どもに読んで聞かせ、親子で話し合い、中学生になったところで、読ませてみて、高校生、大学生、結婚してわが子を持った時に読んでみて、というように、人間のいろいろな場面で、読むに堪える物語であると今もって思っています。
高三の政経の授業中に、フランス語の授業での逸話を話していたら、「それは僕のおじいちゃんです」と言った生徒がありました。Le Petit Prince を教えていただいたのは林和比古先生。今でも、わずか1点の差だが、その差は無限だ。フランス語を使うのか使わないのか、この言葉は、今日の私を作り上げています。
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