『不思議の国のトムキンス』 ジョージ・ガモフ
子供が大人の世界を学んでゆくとき、おとぎ話が手を貸してくれるように、宇宙物理学者ジョージ・ガモフは物理の世界とはどんな世界なのかをイマジネーション豊かに語りかけてくれる。「不思議宇宙のトムキンス」には高校生のころに読んだガモフ作「不思議の国のトムキンス」、「原子の国のトムキンス」にさらに宇宙と素粒子に関する新しい知見が加筆され、21世紀の物理学入門書となった。
主人公である平凡な銀行員トムキンスは物理学の講演を聴講するたび、3つの基本物理定数「光の速度c」、「重力定数g」、「量子定数h」の値が変化し、夢の中で数々の非日常を体験する。
トムキンスが自転車をこぐと、高速で飛び回る荷電粒子のように、ローレンツ・フィッツジェラルド変換による時空の収縮が起こり、相対論的効果を身をもって体感することになる。トムキンスがジャングルを探検すると、「もの」それ自体がもつ特性である量子効果が顔を出し、飛び回るハエがその輪郭を雲のようにぼやけさせる。また、トムキンスは、プランクスケールの世界で絶えず繰り広げられる粒子・反粒子の対生成と対消滅を、まるでイルカがディラックの海面を颯爽と泳ぐような光景として目の当たりにする。
善と悪がはっきりと区別され、モラルは明快で答えは1つだとするおとぎ話の世界と同じように、ガモフは幻想的ともいえる状況を許して、高度化する現在の科学の現場に子供ならず大人たちも導いてくれる。
進展と変則生を宿命とする物理学に、2012年ヒッグス粒子発見のニュースが飛び込んできた。物質に質量を与え、宇宙に相転移を促し、時間の矢を進めるきっかけをつくるこの粒子とそのはたらきを、ガモフならどのように描いてくれるだろうか。
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