金蘭千里50式

金蘭千里学園50周年特設サイト

「金蘭50式」は、50周年を迎える金蘭千里中学校・高等学校の「今」をお伝えする特設サイトです。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の姿を描き出します。

活躍50色

岩田拓朗さん(半蔵門総合法律事務所弁護士、10期)

開校50周年、おめでとうございます。中学・高校と6年間、人生において最も重要な時期に金蘭千里の教育を受け、おそらくは自分では気付かないくらいに金蘭千里の色に染まったのだろうと思います。このことを検証する良い機会と思い、本稿の執筆を引き受けることにしました。

私は、現在、弁護士として法律事務所を運営し、依頼者のために民事裁判の代理人を務めたり、刑事被告人を弁護したり、事業者に対して法律的なアドバイスをするといった仕事をしています。
なぜこの職業を選択したかと振り返ると、大学の法学部への進学が起点になるのですが、それは辻本校長先生の策略にまんまとハマってしまった結果だったのです。数年前の尚友会の総会(ホームカミングデイ)で、辻本先生が講演をなさったときに、先生は金蘭千里の政経の教師となった当時のことを話されました。そのなかで、大阪大学法学部・大学院ご出身の若き辻本先生は、「骨のあるヤツを大学の法学部に送り込む」という野望をもって授業をしていたといったお話をされました。その野望の前に「骨のあるヤツ」とはいえない私などは、抵抗するすべもなく屈してしまったのです。先生は、野望を実現するために、進路指導などではなく、授業で法を学ぶおもしろさをわからせようと暑苦しいまでの情熱を注いでおられたのです(当時はその意図に気付きませんでしたが暑苦しさだけは本物でした)。今でもはっきり覚えているのは、辻本先生が、自由とは何か、自由な人間が国家統治のもとで無拘束であり得ないのはなぜかといった授業をされ、そのとき「人は生来的に自由(無拘束)な存在である」(ホッブズ)ということ出発点にして民主主義にたどり着く思考過程を、まるで幾何の証明問題のように説明されました。当時、社会の仕組み、政治の仕組みといったものは複雑なものであり、自分のような高校生ごときには理解の遠く及ばないものに違いないと思い込んでいた私にとって、その授業はとても衝撃的でした。私は、先生のこの授業から、人間とはいかなる存在かということをいわば幾何の公理のようにすえて説明する手法の明快さ、そして、なによりも、社会の仕組みなんて所詮人間のやること、そんな難しいものではないよというメッセージ、霧が晴れたような爽快感を得ることができました。そして、気付いたら私は法学部に進んでいたのです(残念ながら、辻本先生の授業の中で、記憶にあるのは上記のことだけで、それ以外は全く覚えていません)。かくして、先生の策略は、私に対しては -「骨のあるヤツ」という点を除いて- 成功したのですが、その策略を、卒業して35年以上たって先生の口から聞かされたわけです。私は、自分の出生の秘密を知らされたような衝撃を受けました。今では、弁護士という仕事に大きなやりがいを感じ、先生の策略に深く感謝しております。

話は変わりますが、平成23年には、金蘭千里学園(以下「金蘭千里」)が北グランド問題(北グランドの土地の所有権を有していた金蘭会学園(以下「金蘭会」)が財政上の理由からその土地を住宅開発業者に売却しようとしており金蘭千里が北グラウンドを使用できなくなるという問題)を抱えており、その解決に向けて、辻本先生から、金蘭千里学園の役員就任の要請を受けました。私は、東京から通うことを覚悟しつつ、辻本先生を含め心に残る師の恩に報いる機会と思い、即、承諾しました。就任時には、金蘭千里の認識は、「金蘭会の売却計画が進んでおり、金蘭千里が北グラウンドの土地を金蘭会の言い値で買い取らない限り、北グランドに戸建て住宅が建ち並ぶ事態がそう遠くない時期に迫っている」といったもので、焦りを感じさせるものでした。私は、就任後直ちに対策に着手し、まず、平成23年12月に理事長の諮問機関として学校用地取得等検討委員会(以下「検討委員会」という。)を立ち上げ、私もその検討委員会のメンバーの一人として、まずもってこの問題に関する金蘭千里の意思決定について、手続きの適正化を目指しました。そのうえで、検討委員会は、意思決定の内容の適正化に向けて十分な討論を行いました。その過程において、平成24年2月に検討委員会は辻本理事長宛の中間答申書を提出し、詳細な理由は最終答申に委ねつつ「本件土地の購入資金手当等の諸条件が許す限り、貴学園〔金蘭千里〕は、所定の手続を経たうえ、本件土地を適正価格にて購入すべきである」との中間答申を行いました。辻本理事長はこの中間答申に基づいて、金蘭会に対し金蘭会の言い値ではなく「適正価格」にて買い受けたい旨を申し入れました。これに対し、金蘭会は理事と監事2名の(弁護士という肩書きを付した)連名による金蘭会理事長宛の意見書を提示して反論を試みました。金蘭千里の検討委員会は、この意見書をも踏まえて検討を行いその結果に基づいて平成24年5月10日に理事長に宛てた答申書(資料を含め97頁。結論は中間答申の結論を再確認するもの)を提出したのです。これに対し、金蘭会は、2週間にも満たない短期間で先の理事・監事2名の(弁護士という肩書きを付した)連名による第2の意見書(5月22日付)を示してきましたが、その意見書は金蘭千里の答申書の内容は不当であり第三者への売却を示唆する旨が記載されていました。これを踏まえて、検討委員会は、検討を重ね8月に答申書2(資料を含め80頁)を辻本理事長に提出しました。その結果、金蘭会は、本件土地を金蘭千里に売却する方針を決め、交渉は順調に推移しています。私は、金蘭千里の2つの答申書の原案の起案を担当したのですが、それを書いているときに金蘭会の示した2つの意見書において「弁護士」という肩書きが権威付けのために利用されていることに同業者として恥ずかしい思いを抱いたのです。そこで、私は、答申書2の最後に次の一節を書き加えました。
「最後に、金蘭千里の役員は、学園の運営を託された者として、何をおそれてはならないのか、そして、何をおそれなければならないのかを十分に自覚して、学園の健全な発展に努めなければならない。おそれてはならないのは、根拠を示さず『権威』を振りかざした批判であり、おそれなければならないのは『権威』に寄りかかり自らの責任において判断することを怠る姿勢である。」

これから社会に出て自らの責任において行動することが求められる立場に立とうとする後輩の皆さんは、ときに「権威」を振り回す人々を前に戸惑ったり悔しい思いをすることがあると思います。そんなときに、厳しい孤独を覚悟の上で自らの責任において信ずるところにしたがって行動する勇気を持ち続けてほしいと思います。自戒の意味も込めて。