金蘭千里50式

金蘭千里学園50周年特設サイト

「金蘭50式」は、50周年を迎える金蘭千里中学校・高等学校の「今」をお伝えする特設サイトです。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の姿を描き出します。

教職50究

英語科講師、バドミントン部顧問  冨田 学誠

妄想少年。
物心がつく前から、歌って踊って何かになりきるのが好きな子どもだった、と母はいう。

小学生の頃は、家に帰るとピアノの前に座り、無心に鍵盤を叩いた。
目を瞑ると見えてくるのは、音符ではないボンヤリとした何か。
それを音にするのが気持ちよくて、ポンポンと音が弾けるのを楽しんだ。
ピアノ教室で与えられた課題を練習するのは大嫌いだったけれど、
自分で作り出す不思議な音空間に身を任せ、ただそこを漂っていることはとても居心地が良かった。

名ばかりのバドミントン部員だった中学生時代、ミュージカルにハマった。
お小遣いをはたいて買った「美女と野獣」のCDは、歌詞カードがボロボロになった。
今でもセリフ一つ間違えることなく、一人ミュージカルすることが出来るくらい、歌い込んだ。
家族からはうるさいと迷惑がられながらも、何役も演じながら、CDにあわせて歌い踊り狂っていた。
本物の舞台とはどんなものだろうかと、想像はふくらむばかり。

念願の「美女と野獣」観劇が親からのプレゼントで叶い、劇場を訪れたのは高校生のとき。
初めての劇場は、パンパンに膨らみきった想像をはるかに超えた、とにかくすごい世界だった。
そして、魔法使いに魔法をかけられたのは、王子と召使たちだけではなかったのだ。
ミュージカルの舞台に立ちたい、という憧れが溢れ出してきた。
けれども、どこか遠い世界だなと、ちょっとしたキョリも感じた。

アメリカ留学時代。
The Little Shop of Horrors, Guys and Dolls, 小劇場や芝居小屋では、毎週末のように何かが上演されていた。
学校のミュージカルクラスのAnything Goesは素晴らしかった。
ステージで芝居をする高校の友人たちは、まるで本物の役者のように見えた。
舞台という存在が、とても身近なものに変わった。

大人になった妄想少年は、毎月のようにあちこちの劇場に出没している。
海外に出かけると、その街で上演している芝居やミュージカルを探しては、足を運ぶ。
劇場空間にずりずりと引き込まれていく。
そして、まるで自分もそのステージに立っているような気になっている。

世のミュージカル俳優たちは引っ張りだこだ。
休む暇もなく、次から次へと新しい演目に出演しては、芝居をしている。
どんなふうに役を作るのだろう、どうやって気持ちを切り替えるのだろう。
不規則な呼吸をさえ許さないほどの強さで、観客を引きずり込んでいくあの演技力は、なんだろう。
劇場をあとにする度に、役者たちからそんな演技力の少しを分けてもらったような気がして、
観劇後しばらくの間、街の中を役者気分で歩いていることは、しょっちゅう。

歌って踊って何かになりきるのが大好きだった妄想少年の夢は、叶った。
だから、もうそこに、妄想少年はいない。

役者となって今、彼は教室という舞台で、一日複数回公演というハードスケジュールをこなしている。
最高の演技者とはなんだろうかと、果てしなく続く探究の道を歩いている。

今日はどれだけ多くの生徒を、感動させることが出来るのだろうか。
そんなことを考えながら廊下を歩くと、校舎に鳴り響くチャイムが、開演を報せるベルに聞こえる。
最高潮に達した緊張をしずめようと、僕は、深呼吸をし、そして教室の扉を開ける。

ようこそ、劇場へ! 本日も、英語の世界をどうぞご堪能くださいませ。