金蘭千里50式

金蘭千里学園50周年特設サイト

「金蘭50式」は、50周年を迎える金蘭千里中学校・高等学校の「今」をお伝えする特設サイトです。一年にわたり、様々な視点からのコンテンツを50個ずつ発信して、金蘭千里の姿を描き出します。

活躍50色

池田祐子さん(京都国立近代美術館学芸課主任研究員、17期)

金蘭千里高等・中学校が設立された1965年は私が生まれた年でもあります。創立50周年記念サイトへの寄稿を、とお声がけいただいたとき、自分がすでに半世紀近くも生きてきたことに少々愕然とすると同時に、忙しい日常に流されがちな心に何だか喝を入れられたような気がしました。

京都国立近代美術館外観京都国立近代美術館外観

私の職場は京都国立近代美術館といいます。日本に5つある国立美術館(独立行政法人国立美術館)のひとつで、昨年開館50周年を迎えました。ここに研究員として勤めて今年で20年になります。この研究員という職種、他の公・私立美術館では「学芸員」または流行の言葉で「キュレーター」と呼ばれるものです。美術館での仕事には、所蔵作品を持たない国立新美術館のような例外を除き、大きく分けて二つの領域があります。それがコレクションと展覧会です。コレクションつまり所蔵作品をめぐっては、その適切な保存管理、個別作品の研究、国内外の美術館への貸与などが通常業務として存在しています。これらは美術館活動の基盤となる極めて大事な業務ですが、来館者が直接目にすることはあまりありません。一方で展覧会は、そのテーマや展示作品を介して研究員(学芸員)が来館者と直接対峙する場となります。どちらにしても業務には、美術史や美術教育学、美術館学など最近は細分化されているものの、美術に関する専門的知識が要求されるため、就職するには大学・大学院でそれらを専門的に学んでおく必要があります。私自身は、大学でドイツ語とゲルマニスティック(Germanistik=ドイツ学)を学んだ後、大学院で美学・美術史を専攻しました。

「研究員」と称される以上、仕事の基本は美術にまつわるあれこれの研究です。しかしその研究をアウトプットしていくために、美術館では実に様々な業務能力が求められます。合理的な書類処理能力が必要なのは他の職場と同様ですが、仕事の目的に沿って様々な専門家と協力しながら業務をこなしていきます。例えば、作品の保存管理では修復家、館の刊行物や広報物の製作ではデザイナーや印刷会社、作品の輸送や展示では美術品専門輸送会社、展覧会場の施工では施工会社といった具合です。その上、展覧会を開催するためには数年前から準備を開始し、必要な作品を貸し出してもらうための交渉を他の美術館や所蔵家と行います。海外の貸与先との交渉では、当然ながら契約書などの読解も含めた外国語能力が必須です。さらには館の総務課と連携しながら、事業に係る予算を管理し、場合によっては助成金や協賛金を獲得するマネージメント能力も求められます。おまけに、展覧会の関連イベントの企画・運営までこなしているので、以前ある公立美術館の著名な女性学芸員が「学芸員に必要な能力は何か?」という質問に、「1に体力、2に愛想(=コミュニケーション能力)、3,4がなくて、5に頭」と答えたのも故なきことではありません。

whistlerホイッスラー展ポスター

IMG_1241デザイン ホイッスラー展会場作業風景

最も最近担当した展覧会が、現在(2014年10月)京都国立近代美術館で開催されているホイッスラー展です。私自身の専門はドイツ近代美術・デザイン史ですが、今回のように19世紀後半にイギリスで名をなしたアメリカ人画家の展覧会も担当します。関連作品を含めると全出品作約150点をアメリカ・英国・フランスの各所蔵機関から借用している本展の準備は、4年間をかけて行われました。展覧会では、作品の並べ方だけではなく、会場に向かうアプローチ、会場内の壁の色やパネル類のデザイン、さらには図録・広報物の内容やデザインに至るまで、展覧会の主旨を的確に伝える環境の創出が試みられています。その様子を是非、実際に美術館でご覧下さい。(展覧会の詳細はこちらまで。http://www.momak.go.jp)

美術館によく寄せられる意見に、世間的によく知られた芸術家の展覧会を開催して下さい、というものがあります。それ自体は否定されるべきものではありませんが、美術館は、有名美術品を展示する一方的な啓蒙の場ではなく、来館者に新たな知識や価値観、多様な解釈の在り方を提示し、議論を誘発するプラットホームだと私は考えています。ソーシャルメディアによってヴァーチャルな情報が蔓延する現在、美術館や博物館で実体的な作品に接することは、一種非日常的体験かもしれません。しかしその体験を通じて得られる日常への批評的眼差しこそが、展覧会などの活動を通して、美術館が、そして美術館で働く私たちが伝えたいものなのです。